ここではイング・ブラックシリーズをご説明する上で欠かせない「靴の製法」について、そして製作の過程を少しだけご紹介します。
イタリア・ボローニャ地方発祥の靴の製法です。
靴内側の裏革前方を縫製段階で袋状に仕立てておいて、それを木型の爪先から被せ、まず踵を吊り込んだ後に再び爪先側の表革を吊り込むという作り方です。
メリットは、裏革を袋状に仕立てる事で、中底となる硬い芯材が前半分は不要になり、まるで一枚革で優しく包み込まれるような履き心地と返りの良さを生み出すこと。
一般的な婦人靴はセメント製法で作られています。
表革・裏革を縫製したアッパー(甲革)を、木型に沿う様に革を引っ張りながら中底に接着して仕上げる作り方です。
シンプルで作業工程が少なく、量産向きの製法ですが、革を引っ張りながら木型に吊り込む為、足当たりが堅くなるとも言われます。
ボロネーゼ製法は、先に裏革を袋状にする為、革を強く引っ張らずに吊り込みます。
そうできることで、柔らかな足当たりの靴に仕上げられる反面、紙型と縫製の精度がとても重要になり、鍛錬された職人の技術が必要不可欠な製法です。
ボロネーゼ製法は本来、中敷きを前半分には入れなくても良い製法です。
その方が袋状の裏革が、より靴下を履いたような包まれ感を生み出しますよね。
だけどイングの靴は、クッション付きの中敷きがしっかり前まで入ります。
伝統の製法を守る意味では邪道かもしれませんが、
イングの靴はヒールがあって、固いコンクリートの上をガンガン歩く、街で使用する靴。
どうしたら現代の生活スタイルに合わせた優しい靴が出来るのか、歴代のデザイナーと職人が考え抜いて作った、
言わば、"ジャパニーズハイブリッド仕様の靴" なのです。
さて、この中敷き&クッション・・・
サンプリング段階で足入れを決めるまでがとても難しい!
靴の製造工程上、中敷きは靴の形が出来上がって木型を抜いた後に貼り付けます。
形が完成した後に弾力のあるクッションを入れるため、その固さや入る位置によって、踏み込むと靴の中の容積が変わってきます。
想定と違ってフィット感が足りなかったり、きつ過ぎたり。
クッション自体が思っていた踏み心地と違ったり…。
その為、木型を緻密に修正していきながら、つり込みの強度や踵の深さまで、幾度も検証して決めていきます。
もちろん、どんな靴もサンプリングを繰り返して完成しますが、ただでさえ難しいボロネーゼ製法、そして”ハイブリッド仕様”は特に、細かいチェックと技術が必要なのです。